シルキー『きゃりーさん、やっぱりあのアクセ買ってきていいですか?』
きゃりー『あぁ、いいよ。ここで待ってるわ。』
タバコを吸う人ならきっとこうゆうタイミングで一服するんだと思う。
僕は代わりにフリスクを一粒放り込み、ちょっとスッキリした息をふぅっと吐いた。
きゃりーの
ナンパDEグッドリズム
真っ向勝負!~昼ストでしか出会えない女~今年も終わりから数える方が早くなった。
年初に第一線を退くと決めてから季節が3回も変わったのか。
『きゃりーさん全然第一線から退いてないじゃないですか!w』とも言われるけど、今年に入って一度も昼ストをしていない。
あれ?一回くらいしたかな?
とにかく、まぁ、そのレベルだ。
そうこうしている間に、僕がナンパクラスタに入った頃と色んなことが変わった。
そもそもクラスタなんて単語は無かったし、『スト師』という言葉は『ナンパ師』の隠語で、決して『クラナン師』と分けるためのそれではなかった。
昔は良かったとか、今の方が良いとか、そんなことはどうでもいいんだけど。
ただ、あの頃は休日の昼過ぎに茶屋町に行けば約束しなくてもみんなに会えた。
僕はあれが好きだった。
でも、今は誰もいない。
そしてそこに行かなくなったのは僕も同じだ。
誰もが美女を抱きたくて入った世界のはずなのに、気付いたら男同士のマウンティングに勝つための手っ取り早い手段として、ゲット数を稼げる夜に出撃している。
別に夜に出撃することやクラナンを否定するわけじゃないことを前置きさせて欲しい。僕も今はそうだしね。
ただ、僕自身がストリート出身だから、クラスタの人数は増えているのに昼ストをやる人が少ないことが寂しいんだ。きっと。
そんなことをモヤモヤと考えているときに、『久しぶりにやりませんか?』とシルキーが声を掛けてくれた。
…どうしようかな。
でもモヤモヤを取るには丁度いいかもしれない。えぇい。とにかくやってみるか!
僕はシルキーにLINEを返し、家を飛び出した。
U街に着いた。
来慣れている街なのに、
久々に『ナンパ』をするために来たU街になんだかプレッシャーみたいなものを感じる。
シルキーと合流し、あーだこーだ話す。
嬉しそうに最近ゲットした子のことを話すシルキー。
ただ、目は合わない。
彼の視線の先では常に獲物を探している。
話の途中で、シルキーが急に真顔になった。
『あれ、行ってきます。』
シルキーが好きそうな、長身のオシャレ系。
彼はすぐに歩を早めた。
…一歩目が早くなったなぁ。
昔、僕が指名しても理由をつけては行こうとしなかったシルキーの姿はそこには無かった。
すげぇ。シルキーの刃はしっかりと研がれている。
対して、自分の刃はボロボロだ。
でも今日はそれを研ぎに来たんだろ?
…行け、動け!!
僕が好きなCancam系の子を見つけ、それに向かって猪突猛進。
しかし彼女との距離が近くなるにつれ、だんだんと不安が押し寄せてくる。
あれ…?
いつもなんて声掛けてたっけ…?
ここまで近づいてしまったんだ。
…もう行くしかない!
きゃりー『…すいません。』
Can子『…。』
きゃりー『あ、あの…。』
自分でもビックリするくらい
声が出ていなかった。
そして、それ以上に次の言葉が出てこなかったのがショックだった。
彼女からしたら、僕は小さい声で『すいません…』って言ってどっかに消えた気持ち悪いやつだったに違いない。
切り替えよう。
もうちょっとテンション上げなきゃ。
しばらくして、次のターゲットが見つかった。
早歩きの美人だった。
これは僕の勝手なイメージだけど、美人は早歩きの人が多い。
彼女たちは何をそんなに急いでるんだろう。
もしかしたら、僕らのような人種を遠ざけるための手段なのかもしれない。
シルキーが見てるのに、あれだけの美人を気付かないフリは出来ない。
…行こう。
行こう行こう行こう!
きゃりー『いやー!もう!美人なお姉さんの目的地が気になって気になって!夜しか眠れない僕ですよほんとに!やっぱり今日は月に2回のメナードの日ですか?』
美人『…苦笑』
オープンは出来たが、会話は尻つぼみで終わってしまった。
そして最後は無視に近かった。
…違う!この声掛けじゃ夜のM街と同じだ。
ベースは誠実に。
そこにユーモアをプラスして。
少し照れながら、かつドヤ顔で運命を演出するんだ。
その後も声を掛け続けたが、僕はバンゲすら出来なかった。
あれ…?
俺ってこんなにナンパ下手だったっけ…?
シルキー『ちょっと気分転換で、ルクアで服でも見ませんか?』
きゃりー『うん。そだね。』
エスカレーターを昇ると、昔僕がブーメランした店が違う店に変わっていた。
『…よくあんなことやったなぁ。』
ナンパには色んなシチュエーションがあるけど、僕はブーメラン・ナンパが一番緊張する。
あんなこと、もう二度としたくないし、出来ない。
…けど一度はやり切ったんだよな。
あの時の俺はどこ行ったんやろ?
僕らはショッピングを楽しんだ後、グランフロントの方に出てナンパを再開した。
シルキー『きゃりーさん、やっぱりあのアクセ買ってきていいですか?』
きゃりー『あぁ、いいよ。ここで待ってるわ。』
タバコを吸う人ならきっとこうゆうタイミングで一服するんだと思う。
僕は代わりにフリスクを一粒放り込み、ちょっとスッキリした息をふぅっと吐いた。
その時。
ひと際オーラを放つ美女が目の前を横切った。
肌の透明感と、吸い込まれそうな瞳。
雑誌から切り取ったような人だった。
物凄い存在感だった。
…俺なんかじゃ無理だ。
ハッキリ言って釣り合わない。
でも、あーゆうのを倒したくて今ここにいるんだろう?
気付いたら、クチの中に入れたフリスクは消えていた。
…行こう。
ナンパの失敗は無視されたときじゃない。
声を掛けれなかったときだ!『ちょwすいません!そりゃズルイすわ!…綺麗やもん!』
『えっw』
『不公平!…いやほんとに不公平を感じる!これだけ美人なら人生イージーモードでしょ?』
『そんなことないですよw』
よし、オープンした!
踏み込むな…一旦引け!
『いやすいませんね急に。僕友達とルクアで買い物してて。ルクアから出たら友達がやっぱりさっきのアレ買ってくる!って戻ってっちゃったんですよ。』
『あぁ、そうなんですね笑』
『そんなときにお姉さんが横切って…目ぇハートになりましたよ!どうするんですかコレ!その美しさは罪なので、とりあえずLINE交換してくれたら許します笑』
『なんですかソレww』
バンゲをするとき、手が震えた。
僕は舞い上がった。
シルキー『見ましたよ!あの子、めっちゃ綺麗でしたね!』
きゃりー『わはは、ありがと!やっぱ昼ストには夢がある!』
美人のバンゲは即より嬉しいことだと再認識した。
誘ってくれてありがとうシルキー。
そして2ヶ月後。
何度も途切れそうになった糸を引っ張り上げ、なんとかアポまでこぎ着けた。
待ち合わせ場所に現れた彼女は、相変わらずのオーラがあった。
グレーのワンピースに巻き髪で仕上げて来た彼女。
相変わらず肌には一点の曇りもなく、整った顔立ちは20m先からでも彼女だとわかった。
『お待たせ。お、ちゃんと俺のために可愛くして来てくれたやん。じゃあとりあえず市役所に婚姻届出しに行く?』
『あははwそうゆうノリの人でしたね笑』
…そう返してくるか。
少したじろぎながらも、無難な雰囲気を作りながら店に入る。
カランコロンカラン。
『ほら、ここ段差あるから。うまくつまずいて俺に抱きつこうか。』
『うふふ。ほんとにやったら抱き止めてくれますか?』
なんとなくだが、
こいつ…
わかってる。
強敵だ。
僕のこういったジャブは、女の子に『お、今日の相手はひと味違うぞ?』と思わせるのに有効なパンチだった。
けどおそらく、彼女はこういったアプローチを経験したことがある。
考えすぎかもしれないけど、全てがこの手のアプローチに慣れている返しに感じた。
そしてこうゆう返しをするタイプは水商売系の子が多い。
それはそれでコントロールしやすい部分も増えてくるんだけど、この子は水商売は未経験だった。
姿勢
箸の持ち方
振る舞いすべてが綺麗で、まるで日本舞踊を踊っているように見える。
素直にそのことを褒めると、『親のおかげかな?ありがとう。』と彼女は笑った。
今のところ突破口は見えない。
困ったときは外角低め!
僕は生まれました~からを語らせるルーティーンを使った。
彼女の経歴は立派だった。
学生時代はミスコンやモデル業など、眩い世界を経験。
美容業界を経て、
今は親の会社を手伝っている。
恋愛遍歴で言うと、夜遊び・火遊びとは無縁で、僕でも知っている芸能人や金持ち青年実業家と付き合っていた。
…くそ、こんなことなら聞かなきゃ良かった!
自分の中の劣等感に頑張って蓋をしようとしたが、きっと僕の顔は引きつっていたと思う。
そして何より感心するのは、彼女がそのことを鼻に掛けるわけでもなく、バランスを取りながら答えること。
これはスキルだ。
コミュニケーション能力の高い彼女に、僕は勝てる要素が無かった。
前半戦でほぼ勝負の見えたこの戦い。
なんだかんだ巻き返して、
家に連れ出してキスまでいったけど、やっぱり負けてしまった。
彼女を乗せたタクシーを見届け、少し肌寒くなってきた夜風に当たる。
吹き抜ける風が
我慢汁で濡れた股間を冷やす。
あ~!
負けた負けた!
負けたけど、
なんだか気分は晴れやかだ。
昼ストは
地蔵はするし緊張もするし、
酔っ払った勢いも使えないし…
足も痛くなるし
その割に成果は出ないし…
でも
それでもやっぱり昼ストは最高だ。
ちくしょう!
ぜったい準々即したるからな!